愛すべき変態
俺がまだ小学生だった1980年代。
ユーモアたっぷりな、憎めない変態どもが、近所にうじゃうじゃ存在していた。
そんな中、最も印象に残っている、愛すべき変態をご紹介。
今振り返っても、カレらの素敵な変態っぷりには脱帽する。
その①『ケツおじさん』
小学校三年生の時、俺は近所のそろばん塾に通っていた。
塾が始まるまで、同じく塾に通う近所の子供達と共に、公園や神社や道路などで遊ぶのが日課となっていた。
いつもの様に遊んでいた、ある日の夕暮れ時。
なにげなく見た、先にある曲がり角から、見慣れぬモノが突き出ているのを発見する。
俺はそれを指差し、反射的にこう叫んだ。
「アレ・・・ケツじゃねえ!?」
おそらく街角でこんなセリフを吐くのは、長い人生の中、最初で最後ではなかろうか。
不条理な事に、塀からケツ・・正確には白いブリーフがにょっきりと生えていたのだ。
「ケツだケツ!!間違いねえ!」
「行ってみようぜ!」
俺の意見に賛同してくれた仲間と共に、急いでそのケツの元へと駆け寄った。
するとそこには・・・
白いブリーフに黒い革靴、手には黒いアタッシュケースを持った、絵に描いた様な変態おじさんが存在していたのだ。
もう子供達は大興奮。
おじさんを囲みながら大爆笑。
おじさんは、嬉しそうにニヤニヤと笑いながら、
手に持ったアタッシュケースを地面に置き、
子供達には中を見られぬ様に少しだけ空け、自分だけ中身を確認し、また閉める。
そして素知らぬ顔をして口笛を吹く。
子供達は一斉に食いついた。
「なになに!?中身何入ってんの!!?」「見せて見せて!!」
しかしおじさんは見せてはくれない。
おじさん「見たい?」
子供達「見たい!」
おじさん「どおしても、見たい?」
子供達「見たい見たい!!!」
おじさん「じゃあおじさんのおっぺに、チュウして」
嘘の様な話だが、本当にこんな素敵な変態がいたのである。
以後おじさんは、毎日の様に出現する様になる。
出現パターンは最初と同じく、夕暮れ時に、決まって塀からケツを突き出し、
それを子供達に発見してもらうというものだった。
「あれ・・またケツが出てる!!」「おじさんだ!」
「あちゃあ~またバレちゃった~」
子供に気付かれるまで、ジ~っとケツを突き出して待ち続けるケナゲなおじさんの姿を想像すると、愛らしさすら覚える。
釣り人が、魚がエサに食いつくのを、ジ~っと待ち続けるかの如く。ただ、ひたすらにケツを・・。
そして、おじさんが現れて1週間くらい経ったある日の事。
もう子供達はおじさんにすっかり慣れ、おじさんも子供達にすっかり慣れ、
一緒になって公園で走り回って遊んでいた。
10人くらいの子供達の中に、一人ブリーフ姿のおじさん。
今振り返ると、非常に不条理な光景である。
で、調子に乗ったおじさんは、公園の中央にあるすべり台の上に立ち、
何を思ったのか皆にこう言い放った。
「今から、このパンツを脱ぐ!」
子供達は、「脱ーげ!脱ーげ!」の大コール。
そしておじさんは予告通り、見事にブリーフを脱ぎ放った・・・。
そんな状況を偶然目撃してしまった近所のおばちゃんの通報によって、
おじさんは即・逮捕された。
パトカーの中に、おじさんを押し込もうとする警察官。
押し込まれぬ様、必死に抵抗するおじさん。
抵抗むなしくおじさんは、パトカーに連れ去られてしまった。
その時の光景を、俺は今も鮮明に覚えている。
以後、おじさんを見た者はいない。
あのアタッシュケースの中には何が入っていたのだろうか。
今となっては知る術も無いし、別に知りたくも無い。
「清野のブログ」