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経歴を“盛る”人々を周囲はどこまで許せるか?

あなたの身近にもいる?経歴を“盛る”めんどい人々

経歴を“盛る”人々を周囲はどこまで許せるか?: 経歴詐称を疑われる有名人は多い。あなたの周囲にも経歴を“盛る”人々はいないだろうか

© diamond 経歴詐称を疑われる有名人は多い。

あなたの周囲にも経歴を“盛る”人々はいないだろうか

週刊文春』(3月24日号)が人気経営コンサルタント・ショーンK氏の経歴詐称疑惑を報じて波紋が広がっている。またもや“文春砲”が炸裂し、著名人が窮地に陥っているわけだが、ショーンK氏本人も疑惑を一部認め、テレビやラジオ番組の出演自粛を発表した。

 この報道を聞いて不思議に思ったのが、周囲の友人になぜ今までバレなかったのかということだ。たとえば筆者が突然、「テンプル大学で学位を取得」などと学歴を語り、低音の美声でテレビに出演し始めたら、友人や知人から総ツッコミに遭うはずである。しかし、『週刊文春』の記者が直撃した旧友たちは、「川上伸一郎」がショーンK氏だと気づいていなかったようだ。高校時代に“ホラッチョ川上”と呼ばれた彼は、稀代のペテン師なのだろうか。

 とはいえ、これまでも著名人の経歴詐称が問題になることは多々あった。著名人ではなくても、今はSNSの時代。プロフィール欄を読むと、なんだかよくわからない横文字の経歴が並んでいる人も散見される。誰もが情報を発信でき、自身のイメージを操作できる現在は、プロフィールを“盛る”誘惑が多い時代なのかもしれない。

 明確な「詐称」と断言できないまでも、自身の経歴を“盛る”人は周囲に不信感や反発心を芽生えさせ、身近な友人や同僚も含めた人間関係を気まずくさせることもある。「ホラッチョ星人」は、まさに“めんどい人”と言えるのだ。

 では、私たちの身近に、「ホラッチョ星人」はどのくらいいるのか。どのようにして、彼、彼女たちの詐称を見破ればいいのか。独自のアンケート調査をもとに、核心に迫った。

 アンケート調査に協力してくれたのは、リサーチ会社「ジーリサーチ」。大学生から社会人までの全国の男女200人に対してアンケートを実施し、まずは世間に「ホラッチョ星人」がどれだけ闊歩しているのか調べてみた。

 アンケート調査によると、経歴を詐称した人、もしくは盛った人を見たことがある人の割合は19.5%。おおよそ2割の人が「ホラッチョ星人」を目撃していることになる。通常のアンケート調査だと2割は少ないと思えるかもしれないが、内容が経歴詐称だけに、著者の感覚からすると「かなり多い」という印象を受けた。まさに、ショーンK氏の問題は氷山の一角に過ぎなかったのだ。

全国200人アンケート調査で判明「学歴」に詐称が集中する理由

 調査では、次のようなエピソードが報告された。

「九州の私立大卒なのに、九州大学卒と偽っている人がいました。大学の名前が紛らわしいので九大と勘違いする人が多かったのですが、本人は訂正せず、周りから『スゴイね』と言われて得意げでした」(35歳・女性)

「地方の私大卒なのに、国立大学出身と騙っていた。最初は本当のことを言っていたが、途中から卒大を偽るようになっていった」(52歳・男性)

「野球の強豪校にいたとウソを言っている人を見たことがある」(51歳・男性)

「転職を有利に進めるため、経験のない経理の職歴を偽っていた」(38歳・男性)

「芸能人と知り合いだと言っていたが、実際にその芸能人に確認したら全く知らない人だと言っていた」(29歳・男性)

「会社の採用試験時に、課程を修了していないにもかかわらず、卒業あるいは出身したかのように詐称している人がいました。正規入学ならまだしも、科目履修生だったので、詐称です」(50歳・男性)

「もともと都内に住んでいて高校の途中で田舎に引っ越したことを言えず、そのまま都内の学校を卒業したことにしていた人がいた」(31歳・女性)

 今回の調査では、学歴詐称の目撃談が圧倒的に多かった。「プログラミング」などの職歴を詐称したケースもあったが、「実際に開発させてみれば、すぐにわかる」という意見もあり、職歴よりも“ブラックボックス化”しやすい学歴に詐称の手口が集中しているようだ。

やはり“勘”に頼るしかない?「ホラッチョ星人」を見破るのは困難

 それでは、「ホラッチョ星人」を見破る術はあるのだろうか。

「誰に教わったか、何の授業を取ったか、修了に必要な要件に論文が入っていれば、何を書いたかをじっくり聞くことが重要」(50歳・男性)

「『その学校や職場に知り合いがいるんです。〇〇さん知っていますか』と聞くと、たいがい動揺するのですぐわかります」(35歳・女性)

 といったところが、有効な手段だろう。しかし、「嘘つかれたら積極的に調べない限り解らない」(52歳・男性)という指摘もあるように、企業の人事担当者でもなければ、“疑惑”の段階でそこまで問い詰められるか疑問は残る。「ちょっと怪しい」と思っても、人間関係を優先的に考えれば、きつく詰問することは誰もが避けたいと考えるはずだ。

 特に、ショーンK氏のように海外の大学を卒業したと語る場合は“ブラックボックス化”しやすい。一緒に通った学友などからの情報が得られにくいからだ。そもそも、テンプル大学がどこにあって、どの程度のレベルの大学なのか知っている人がどのくらいいるのか。海外の大学というだけで、「とにかく凄そう」と畏まってしまう人がほとんどである。

ホラッチョ星人」としては、そういった隙を突くのだろう。一方、「所持している小道具などが、騙る職歴などに見合っていない」(34歳・女性)、「『いかに自分が凄いか』みたいなことを語るタイプは怪しい」(24歳・女性)といったところに、不自然さを感じる人もいる。我々一般人にとっては、やはり“勘”に頼るしかないのだろうか。

あなたは経歴詐称を許せる?「女性のほうが寛容」という意外

 ところで、そもそも経歴を詐称することは、どのくらい悪いことなのかという問題もある。アンケートによると、「詐称を許せない」と答えた人は50.5%だった。逆に考えると、半数近くの人が「許せる派」であることがわかる。男女別では、女性の54.9%が「許せる派」であり、男性よりも女性の方が詐称に対して寛容な傾向があるようだ。

「許せる派」の代表的な意見は、次のようなものだ。

「経歴を詐称したことによって、人の命に関わるような重大な事件が起きることはない」(25歳・女性)

「きちんと仕事をしているなら、そんなに気にするようなことではないと思う」(34歳・男性)

「医者などの資格が必要な仕事ではない限り許せる」(27歳・女性)

 さらに、「その経歴に対しての先入観を持つ側が悪い場合もある」(29歳・男性)との意見も寄せられた。

 確かに、ショーンK氏の問題に関しても、「学歴や職歴にこだわり過ぎる日本人」に対して疑問が投げかけられた。「コメンテータとして実力があったならば、それでいいではないか」と。著名人の名前を検索してみても、「学歴」と予測ワードが出てくることが多く、世間の大多数の人が「学歴」などで人の価値を測っていることがわかる。だからこそ、世の中から「詐称」の種が消えないのだ。

 筆者の場合、非常に中途半端な学歴なので、プロフィールに記す場合もあれば、記さない場合もある。しかし、仮に誰もが羨むような学歴を持っていたら、毎回記すかもしれない。それによって、発言していることの信憑性が高まると思うからだ。そう思っている時点で、筆者も知らず知らずのうちに「学歴病」にかかっているのだろうか。

 しかし、だからと言って、詐称をしていいというわけではない。学歴や経歴に過度にこだわる悪い側面が日本人にあることは間違いないと思うが、それによって会社での賃金や待遇が変わってくる場合もあるし、そもそも「嘘」は社会的な信頼を損なう。ショーンK氏の一件を見ても、痛いほどわかるだろう。

 世の中の2割近くの人が目撃しているという「ホラッチョ星人」たち。自分を大きく見せたい、尊敬されたい、仕事を獲得したいなど、様々な動機はあるだろうが、詐称が判明したときの代償はあまりに大きい。ありのままの過去を受け入れて、勝負しなければいけないのである。

 当連載についてご意見がある方は、筆者のTwitterアカウントにご連絡いただきたい。全てに返信できないとは思うが、必ず目を通したいと思う。