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まさに地獄! 潜入調査で見たユニクロ下請け工場の実態

1.ユニクロ中国工場への潜入調査

 
 香港を拠点とするNGO・SACOM(Students & Scholars Against Corporate Misbehaviour)は、東京に本拠を置く国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)、中国の労働問題に取り組むLabour Action China(中国労働透視)との共同調査プロジェクトの一環として、2014年7月から11月にかけて、日本のブランド「ユニクロ」の下請け・素材工場への潜入調査を含む、事実調査を行った。
 
 調査対象となったのは、ユニクロの下請企業のDongguang Luenthai Garment Co. Ltd(以下Luenthai)の工場と素材提供先であるPacific Textiles Holding Ltd(以下Pacific)の工場であり、いずれの工場でも、労働法規への明らかな違反や労働者に対する極めて過酷な労働環境の実態が明らかとなった。
 
 SACOMは調査報告書を今年1月に世界に向けて公表、日本でも大きな話題となった。
 

2.調査の結果明らかになった過酷な労働環境

 
 SACOM調査で明らかになった問題点は以下のとおりである。
 
 1)長時間労働と低い基本給
 Pacific および Luenthai は基本給をそれぞれ月額1550人民元及び1310人民元としているが、これは最低賃金であり、平均的賃金レベルよりはるかに少なく、時間外労働によって生活賃金を稼ぐことが常態化している。そして、両工場の時間外労働数は驚くほど長い。時間外労働時間数は、 Pacificで月平均134時間、Luenthaiで月平均112時間の時間外労働と推計されている。中国労働法では36時間を超える時間外労働は認められておらず、明らかな法律違反である。
 
 2)リスクが高く安全でない労働環境
排水が作業現場全体にあふれている(SACOM提供)
 いずれの工場の労働環境も、大変劣悪・危険であり、労働者の健康と安全に深刻なリスクをもたらしている。
 例えば、Pacific工場では排水が作業現場の床全体にあふれている。床が滑りやすいことにより、転倒し、身体不随になるような労働災害を引き起こす可能性があるし、機械の漏電のリスクも高い。2014年7月には機械からの漏電で労働者が死亡しているとの報告もあったという。
 
 さらに、深刻なのは、工場内の異常な高温である。工場の夏季の室内気温は約38℃にまで達しているが、エアコンはない。そのため、男性の多くは上半身裸で作業をし、女性も汗だくだという。聞き取り調査に答えた労働者は「あまりの暑さに夏には失神するものもいる」、状況は「まるで地獄だ」と話した。染料部門では、染料タンクは運転時に非常に高温になるため、室温は38-42℃にまで達し、作業員は100-135℃となる染料タンクのそばに立って、タンクから重い生地を取り出さなければならないが、囲いやゲートはなく、労働災害による怪我のリスクが増加している。
 
 さらに、染物部門では異臭を伴う有害な化学物質が使用され、労働者は強い臭気のなかで作業を余儀なくされている。化学薬品は無造作に工場内に置かれ、換気の設備はなく、健康被害を防ぐための措置も講じられていない。工場側は労働者にマスク、グローブ、専用スーツなどの防護キットを必要に応じて提供すると言うが、染色作業場の室温は40度という高温に達するため、これを使用することは事実上不可能である。化学物質への曝露による労働者への健康影響が深刻に懸念される。
 
 3)厳しい管理方法と処罰システム
 Pacificでは、労働者を処罰するため、58種類の規則が制定されており、そのうち41の規則は罰金制度を含んでいるという。罰金制度は労働者と商品の質をコントロールする方法として頻繁に使われる。たとえば、編物のフロアでは、製品の品質を管理維持するために、数々の罰金が用いられており、商品に品質上の欠陥が見つかったり、編み機によごれがあったりした場合は、その労働者に一日の生産ノルマを達成した際に出される割増金から罰金が差し引かれるという。Luenthaiでも、罰金制度は罰として利用されている。 しかし、中国の労働契約法上、このような処罰は認められていない。
 
 4)労働者の意見が反映されない
 2つの調査対象となった工場には、労働者が、労働条件におけるさまざまな問題に関して要請したり、苦情を申し立てることができるような機関やメカニズムが何ら準備されていない。Pacificでは、組合の委員長は管理部門の人間が兼任しており、Luenthaiにおいては、工場レベルにおいて労働組合は存在しない。しかし、いずれも労働者が声をあげる場となり得てはいない。
 
 

3.改善の勧告

 
 以上の調査結果を踏まえ、SACOMおよびHRNは、製造業者および(株)ファーストリテイリングに対し、以下のことを求めた。

 製造業者2社に対する勧告:

・中国労働法に基づき、最低でも週に1日以上の休日を労働者に与え、月の時間外労働時間数を36時間以内におさめること

・労働者の健康及び安全に関して、適切な訓練、保護、及び健康診断を提供すること

・中国労働法の規定に従い残業代を支払うこと

・労働者の尊厳を守るため、経営方式を変革すること

・労働者が定期的に休憩を取ることができるようにすること

・製造工程で用いられる有害な化学物質から労働者の健康を守るため、必要なすべての対策を講じ、その対策と実施状況を公表すること


 (株)ファーストリテイリングに対する勧告:

・製造業者に対して適切な援助をし、労働環境の改善を促すこと

・同社の企業社会責任ポリシーを遵守すること

・製造業者が直接・民主的な労働代表を選任することができるようサポートすること

・製品の製造業者に関する情報を開示することで透明性を維持すること

 

4.問われるグローバル企業の社会的責任

 
上半身はだかで織物工程の問題を直しているあいだも、労働者は汗をかいている。(SACOM提供)
 経済のグローバル化のなかで、欧米や日本企業が人件費の安い海外に製造拠点を移し、アジアが生産工場となる動きが進んでいる。こうしたなか、海外の労働現場で児童労働、過酷な搾取的労働が発覚する事例も後を絶たない。特にファストファッションの低価格競争が激化した縫製産業では、2013年のバングラデシュの「ラナプラザビル崩落事件」が象徴する通り、海外下請け工場での過酷な労働が問題となっている。
 下請け企業を使ってビジネスをしている企業は、下請けを通じて利益を得ているのであり、下請け工場の人権問題に負の影響が起きた場合、何ら責任を負わないとはいえない。「CSRと人権」が叫ばれているが、自社、そして下請け労働者の人権・特に労働法規の遵守は企業の人権に関わる義務の最も重いものである。
 
 今回のユニクロの調査結果は、日本企業の海外進出に伴う生産拠点で人権侵害が起きることに警鐘を鳴らす結果となった。これはファーストリテイリングの企業活動の結果発生した人権侵害事例であり、「下請けの問題」として無視することは許されない。
 
 国連の人権理事会が2011年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」 によれば、企業には、サプライチェーンにさかのぼって人権侵害に関し相当の注意義務を負うという「デュー・ディリジェンス義務」が課され、さらに、「企業は、負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力」することが求められている。
 
 ファーストリテイリングには、国連の指導原則に従って適正な解決を期待したい。
 

5.ファーストリテイリングの今後の対応に注目

 
 1月15日、ファーストリテイリングは、SACOM調査報告書で指摘された問題のいくつかが事実であることを認め、改善を進めるとの方針を公表した。
 
 さらにNGO側の申し入れを受けて、1月19日、ファーストリテイリングとSACOM、HRNの協議が、来日中のSACOM代表者の参加のもと、東京で実施された。
 
 そこでNGO側は、1) 事実関係の確定、2) 原因の分析(現地工場のモニタリング体制の不備)、3)原因分析を踏まえた改善策や体制の改革、4) そしてその実施というすべてのプロセスにおける透明性の確保を求めるとともに、再発防止のための実効的なモニタリング・システムの確立実施を求めた。
 
 NGO側は、今回の事態を受けて、ファーストリテイリング社が2工場に行う調査結果を公表するよう求めた。また、ファーストリテイリング社が、中国におけるすべての生産拠点に対する調査も実施するとしている点は評価できるが、その結果についても公表してほしい、そして中国における生産拠点すべてを公開してほしいと要請した。また、第三者機関による査察は、監査法人等への委託ではなく、NGOによるモニタリングを認めるよう求めている。
 
 さらにこうした劣悪な労働環境の根本原因が、ファーストリテイリング側の発注価格の低さや厳格な納期要求等に基づく構造的な問題なのか否かを分析し、そうであれば取引のあり方そのものを見直し、安全で人間らしい労働環境を保障しうるだけの適正価格でのオーダーをすることも求めた。
 
 日本を拠点とするグローバル企業の生産拠点での人権侵害が問われた本件について、ファーストリテイリングが、他の企業に範を示す改善を実現できるか否か、その行方をウォッチし、ダイアログを重ねていきたい。