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学歴別「犯罪率」「飢餓率」に見る絶望ニッポン

■学歴別の犯罪率はタブーなのか? 

 日本は、学歴社会といわれます。

 学歴社会とは、地位や富の配分に際して、学歴がモノをいう度合いが高い社会のことです。

 日本がそうであることは、誰もが知っています。たとえば、私と同じ30代後半の男性有業者の平均年収を学歴別に出すと、中卒が315.6万円、高卒が386.4万円、大卒が572.2万円です(総務省『就業構造基本調査』、2012年)。正社員比率が学歴で違うことも影響しているでしょう。既婚率(結婚チャンス)も、学歴によってかなり違っています。

 こういうデータは回を改めて紹介するとして、今回ご覧に入れるのは、学歴別の犯罪率です。

 学歴社会・ニッポンでは、高学歴者が多くの報酬(称賛や敬意といった非金銭的なものも含む)を得ますが、低学歴者はその逆です。そうである以上、犯罪率の学歴差は大きいのかどうなのか。

 この手のデータはタブー視されているのか、あまり明らかにされていないようです。

 ここにて、私が官庁統計から試算した結果を報告し、学歴社会といわれる現代日本の病理について考えてみたいと思います。

 はて、犯罪者にはどういう学歴の人が多いのか。

 2010年の法務省『矯正統計』によると、同年に刑務所に入った新受刑者は、男性が2万4873人、女性が2206人となっています。表1は、この刑務所入所者(男女)の学歴の内訳です。原資料には12のカテゴリー(区分)が設けられていますが、省略せず全部を掲げています。

 男女とも、中学校卒業が最も多くなっています。男性では42.1%、女性では37.6%、だいたい4割です。国民全体では中卒者は2割ほどであることを考えると、この比率はかなり高いとみられます。

 一方、人口中では同じく2割いる大卒者は、刑務所入所者では5%ほどしかいません。刑務所入所者の学歴構成は、国民全体のそれとかなり隔たっています。刑務所に入るのは、時代状況により進学を断念した人や志望しなかった人が多い高齢者の世代が中心だからだろう、と言われるかもしれませんが、そうではありません。

 統計によると、新受刑者の半分近くは、血気盛んな20~30代の若者です。高校・大学進学率が高まった、この世代を基準に考えると、表1の刑務所入所者の学歴構成は、さらに歪(いびつ)であると判断されます。

 

■少数派の低学歴層に「不利益」が集中

 ベース人口を考慮して、それぞれの学歴グループの刑務所入所者出現率を計算してみましょう。

 表1のカテゴリーの(2)(4)(6)を小・中卒、(7)(9)を高卒、(10)を大卒とします。この3群の刑務所入所者数を、該当する学歴人口10万人あたりの数にします。計算に使った分母の学歴人口は、2010年10月時点の数値です。同年の『国勢調査』から得ました。

 表2は、結果の一覧です。学歴別の刑務所入所率の試算結果をご覧ください。

 男女とも、学歴の低い群ほど刑務所入所率が高くなっています。学歴による差は男性で大きく、大卒を基準にした倍率にすると、高卒は5倍、小・中卒は32倍にもなります。義務教育だけを修了した人間が刑務所に入る確率は、高等教育修了者の32倍ということです。予想はしていましたが、ここまで大きな差があるとは……。

 現代日本は、高校進学率95%超、大学進学率50%超の高学歴社会です。この社会では、小・中学校のみ修了した人は、就ける仕事が著しく限られる、低収入で働かされるなど、諸々の不利益を被るのが現実。

 生活態度の不安定化レベル(犯罪へのプッシュ要因)、犯罪誘発要因や逸脱カルチャーへの接触頻度(プル要因)も相対的に高くなると思われます。こうした傾向は、社会参画の度合いが高い男性で顕著でしょう。

 表2は人口全体のデータですが、若年層に限ったら、犯罪率の学歴差はもっと大きくなると推測されます。上級学校進学率の上昇により、低学歴層がますますマイノリティー化し、諸々の困難や不利益が、この層に「凝縮」される度合いが高まっているわけですから。

 その様相を可視化してみましょう。

■若年の低学歴層の飢餓経験率が突出

 2010~14年に各国の研究者が共同で実施した『世界価値観調査』では、「この1年間、十分な食料がない状態で過ごしたことがあるか」と尋ねています。いわゆる飢餓経験です。飽食の国・ニッポンで飢餓なんてあるわけない、と思われるでしょうが、そんなことはありません。

 国民全体の飢餓経験率は世界でも最低レベルですが、属性別にみると、率が際立って高い層があります。図1は、18歳以上の国民を「年齢×最終学歴」の群で区分けし、群ごとの飢餓経験率を出した結果です。

 各グループの量の比重は、四角形の面積で表現されています。50歳以上の高齢層が多いのは、人口の少子高齢化を反映しています。学歴構成は、若年層ほど高くなっています。最終学歴が義務教育(中学校)の者は少数です。先ほど述べたように、上級学校進学率が高まっているためです。

 図中の%値は、各グループの飢餓経験率ですが、若年の低学歴層で値が飛びぬけて高くなっています。30歳未満の中卒者では17.9%、6人に1人が飢餓を経験していると。上記の表現を繰り返しますが、マイノリティー化した低学歴層に困難が「凝縮」されている構造を見て取れます。表2でみた犯罪率の学歴差は、こうした生活状況の違いによる可能性が大です。

 日本は、国全体は豊かですが、少数の不利な属性群に困難が集中する事態になっています。日本の子どもの貧困率は16.3%ですが、ひとり親世帯に限ると54.6%、世界でトップです(2012年)。全体とひとり親世帯の落差がここまで大きいのは、日本の特徴です。2人親の標準世帯を前提に、諸々の社会制度が組み立てられているためでしょう。

 「豊かさの中の貧困」。われわれは、この問題の重さを認識しないといけません。今回紹介した、学歴別の犯罪率と飢餓経験率は、それを教えてくれる最良のデータです。

武蔵野大学杏林大学兼任講師 舞田敏彦=文